皆様お元気でいらっしゃいますか。暦の上ではもう春になってまいりましたが、今年は良い意味で寒い冬でした。
2月に行われました十七代目中村勘三郎さんの追善公演も、お陰様で大入りのうちに千秋楽を迎えることが出来ました。2月は私の大変好きな「籠釣瓶花街酔醒」の「八ッ橋」。それから30才を過ぎましてから度々上演させて頂いております「ぢいさんばあさん」の「るん」でございました。「ぢいさんばあさん」といいますのは、題名がほのぼのとしておりますが、森鴎外原作の大変良い作品でございます。もし違う題名でしたらお客様も、もっと入り易い感じだったのかもしれませんが、宇野信夫先生の脚本によってこの題名になったわけでございます。しかし宇野信夫先生の脚本力といいましょうか、大正・昭和の良い時期の日本の淡い作劇法で素晴らしいお芝居になっております。このお芝居を演じておりまして特に印象深いことは、若いころから仁左衛門さんと共演させて頂いて、今年で44年目を迎えるのですが、この「伊織」と「るん」が生き別れになって37年振りに再開することに、何となく『もう何十年も共演してきたんだな…』という思いが重なって、しみじみと感じられる作品でございます。また今回の追善の「口上」にも出させて頂きました。5年前の「中村勘三郎襲名披露興行」で「口上」に出させて頂きましたことが、ついこの間のような気が致しまして、中村屋さんの「口上」を聞いておりますと5年前の「口上」から今回の追善「口上」の時間が繋がっているような、どこかそんな不思議な思いも致しました。先代の中村屋さんがお亡くなりになりましてからもう23回忌を迎えますが、本当に月日が経つのは早いものと改めて感じました。
夜の部で上演しました「籠釣瓶花街酔醒」は、私にとりまして思い出の深い作品でございます。6代目中村歌右衛門さんの「籠釣瓶花街酔醒」を6才の時に初めて歌舞伎座で拝見したのですが、その印象が深く残っておりまして、今日に至るわけでございます。先日偶然にもその舞台の映像がNHKで放映されておりましたので録画しましたが、6才の時に観た「籠釣瓶花街酔醒」をいつでも映像として観られるというのは本当に良い時代になったと思います。「籠釣瓶花街酔醒」という作品は5代目中村歌右衛門さんに宛てて書かれた作品でございます。成駒屋さんのお家に取りまして本当に大切な作品でございますが、この追善興行で上演させて頂けた事はご縁でもあり、導きでもあり、本当に夢のようでございました。昭和31年に歌舞伎座の「籠釣瓶花街酔醒」を客席で観ていた者が、ましてや先代中村屋さんの追善公演で上演させて頂くということを 本当に有り難く思う2月の追善公演でした。
さてこの3月は前回のコメンのでも述べました通り、先々代の十三代目片岡仁左衛門さんの十七回忌。私の父の三十七回忌で「菅原伝授手習鑑」の「道明寺」の段を上演させて頂きます。この「道明寺」は私が玉三郎になる昭和39年6月の前の月に、私の父が「覚寿」の役をやっております。今回私がそのお役をやらせて頂くことになりました。昔から若い女形の大役をやらせて頂いた私ですが、年老いた役をやることに関しまして、お客様方には少し抵抗があるかもしれませんが、役者と申しますのは色々な役柄をやらなければならないと父からも言われて育ちましたので、私自身はあまり抵抗を感じておりません。以前上演しました「ふるあめりかに袖はぬらさじ」にしましても、年増芸者の役でしたし、その他に汚れ役もやってまいりました。近年でいいますと「牡丹燈籠」のような、殆ど素顔のような化粧で舞台の出る長屋の女将さんもやって来たわけですが、自分としましては振幅の大きい役柄で歌舞伎座に立たせて頂けますことを役所冥利に尽きることだと思います。初めての役柄でございますので、どんなふうに自分が演じられますか想像はつきませんが、出来る限り最善を尽くしたいと思いますし、自分の経験や年齢を活かして努めさせて頂きたいと思う次第でございます。
もう「ひな祭り」です。この時期が過ぎると桜の季節となります。この3月、4月「歌舞伎座さよなら公演」を無事に努めたいと思う今日この頃でございますが、皆様どうぞ歌舞伎座に足をお運び下さいますようお願い申し上げます。